Restaurant ESqUISSE | レストラン エスキス

Behind the Dishes

2020.08.24
豆腐のベール

この料理の成り立ちには2つの誕生秘話があります。最初の誕生、それは私が働いていたフランス ロアンヌのミシュラン三つ星レストラン「トロワグロ」で、ミッシェル・トロワグロと共に数週間かけて凝乳のラビオリのレシピを完成させたときです。未確認飛行物体のようなミステリアスなプレゼンテーションと味わい。このラビオリはその後「トロワグロ」のシグニチャーとなりました。

2回めの誕生、それは私が来日した2006年のこと。凝乳のラビオリの日本バージョンを作るために、豆乳を使いたいと思いました。

長い時間をかけて然るべき豆乳とにがりを手に入れ、そこから実験が始まりました。苦すぎず、食感もよく扱いやすい適度な厚みとテクスチャーに持ってゆくまで、加熱の温度と時間をミリ単位、秒単位で調整しました。合計2回の研究と実験を経て完成したのがこの豆腐のベールです。

この料理のアイデア、そしてテクニックは私の人生にとって、2つの意味でかけがえのない大切なものです。まず私にとっては永遠に「料理の父」であるミッシェル・トロワグロとの共同作業に生まれた料理であること。そして今私が料理人としての人生を歩んでいるここ日本で昇華されたレシピであるからです。

私はこのベールが象徴するもの、モノクロームの世界が好きです。何か意図を持って置かれたものを慎み深くそっと隠すベールは軽やかでいて肉感的な存在。豆腐のベールの下に隠されるものは、季節によってまた直観によって変わります。今年の夏は冷製です。大豆と枝豆、卵のコンフィをトリュフを麦味噌のペストでまとめて調和を取り、バジルとゴーヤがアクセントとなり、リモンチェッロが優しく香ります。