Restaurant ESqUISSE | レストラン エスキス

Behind the Dishes

2019.04.11
素材の香り - 苺のマリネ、グリーンピースとアーモンドのムース、シェーヴルのアイスクリームとカモミール-

70年代、私の家族はフランスアルプスのヴェルコールに山小屋を所有していました。このデザートはそこで私が過ごしたバカンスの思い出と結びついた、センチメンタルなものです。

ここで使われるすべての素材は明確に、香りを味に変換するために集められたものです。なぜなら思い出はまず香りと直結しているからです。

五感のひとつである嗅覚は、感情を司る右脳に最も多くの情報を提供しているとされます。

子どものころの思い出につながる感情に従うこと、それは料理をする上で頼りになる方法だと私は思います。なぜなら、まず料理する私自身がわくわくしなければ、お客様をわくわくさせることができないからです。その先は純粋なロジックと確かな調理技術に導かれれば十分なのです。

ヴィネガー、ハチミツ、穏やかな香りのスパイスでマリネした苺は、アルプスの山道の香りをそのまま映し出す鏡。甘い木苺やフランボワーズ、野生の桑の実など森の小さな果実が混ざりあう香り、さらに時々加わる野生のルバーブの酸っぱくてメタリックな香り。

グリーンピースとアーモンドは、クリーミーでほんのり甘いムースにして、山小屋周辺の畑の香りを表現しました。フランスの田舎の家では、いんげんや、そら豆、グリンピースなどを育てていて、春先には、その青臭くそして甘い香りに私はいつもうっとり魅了されるのです。

そして一番、思い出深い香りは、山小屋の近くで草を食む山羊たちの匂いです。山羊の獣臭、山羊の肌の匂い。もちろんそのままデザートに盛り込むには難しい香りですが、シェーブル(山羊のチーズ)がパーフェクトに表現してくれます。シェーヴルにカモミールを合わせることで、なめした革や上品なリネンを思わす優しい香りが加わり、すべての香りがひとつに融合したアイスクリームに。

私の香りの記憶、爽やかな苺、甘いグリーンピース、力強いシェーヴル。それら3つが味わいとして混然一体となったデザートです。

こうして、私にインスピレーションを与えてくれたあの場所に、今ある大人の私を育ててくれたあの場所に、このデザートを通してお返しをするのです。

リオネル・ベカ